ネイチャーマジック

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「日常」と「非日常」の融合から

 

数日前。
ネイチャーマジックに取材を依頼。すると集合場所に指定されたのは、森。

 

そして当日、陽射しも強くなってきた午前10時。
ネイチャーマジック代表の野沢さんは、長靴姿で登場しました。

 

今日の森のようちえんでは、川へ行きます。季節に応じた野遊びをするためです。
小さなリュックを背負った未就学児が集合しています。
中にはおうちの人とのお別れが不安な子もいたり…。

 

数分後、森に入ると木の枝や木の実などのタカラモノを見つけはじめます。
「昨日ね、自分で着替えを用意したよ」
といいつつ、得意げにリュックを見せてくれる4歳児。
少し歩いては何かを発見し、立ち止まって覗き込む園児たち。
本当に楽しげな笑顔をみせてくれます。

 

ああ、なんて和やかな雰囲気なんだろう。

 

しかし、いつになったら川につくんだろう…

 

歩き始めて早や1時間。
運動不足の私には、歩きなれない森の道。子どもたちに必死でついていきながら
やっと川に到着…。

 

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■日常と非日常のジレンマ

 

 

野:子どもたち、落ち着いているでしょう。

森のようちえんの一学期が4月に始まってから3か月たちましたが、

子どもたちはめまぐるしい成長をみせてくれています。

 

集合からお散歩、川に到着。そしてお弁当を食べて、川遊び…

そういえば、大人の声が聴こえない。

「しゅうごーう!」「お弁当だよー」というみんなを集める声すら、聴こえない。

 

野:子どもたちが落ち着いているので、私たちが大きな声を出す必要は

まったくないんです。

子どもたちも奇声をあげたり、騒いだりすることはありません。

自然に調和しているんです。

 

森のようちえんをはじめるまで、ネイチャーマジックの主な活動は

キャンプや小学校行事「自然学校」での指導でした。

キャンプのいいところは、完全な「非日常性」。

友だち関係すらないところから始まりますからね。自然の中に入って開放的にな

り、でも逃げ場も便利さもなく、人間の力の根本的なところをしっかりと使わな

いとうまくいかないのがキャンプなんです。

そこでは日常で凝り固まった人間関係や、自分と言う“役”から抜け出し、本当の

自分を見つけることができます。

 

一方「自然学校」のいいところは、「日常」であること。

人間関係がすでにある…。毎日通う学校そのものですよね。

問題もかかえたそのまんま、自然に入る。

いろんな体験の中でいつもと違う意外な一面をみることができたり、揉め事に対

していつもとは違う環境で話し合ったりと、日常の中に自然体験があるのがすご

くいいと思ったんです。

逃げ場のないそこでは、日常の問題に本音で向き合うことができます。

 

2004年にネイチャーマジックができてから、自然体験のよさと日常のよさを

融合できないかと葛藤し続けていました。

そこではじめたのが、月に1回、1年間同じメンバーで活動する「トムソーヤキ

ッズクラブ」です。

毎月子どもに会うと、パッと見では隠れているような、実は自己中心的な一面や

周囲に溶け込めない部分などもみえてくる。

毎月子どもに会うと、問題が起こったそのときに活動を止めて、子どもに寄り添

ってゆっくり話を聴くというような関わり方をすることができるんです。

その後の子どもの様子や変化をみながら、じっくり関わっていける。

トムソーヤキッズクラブは、1年間の長いキャンプだと考えて実施していました。

そんな時、森のようちえんに出会ったんです。

 

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■理想のカタチ

 

ネイチャーマジックが実施している森のようちえんは週5日。

 

「森のようちえん」は、森のような大自然を「園」として、意図的に大人の考えや考

え方を強要せず、子どもが持っている感覚や感性を引きだす関わり方が特徴的。

自然の中での幼児教育や保育に共感する人々の間で、近年全国的な広がりを見せています。

 

の:しっかり準備をして、今のカタチになるまで3年かかりました。

開園したけれど、園児はゼロ。

でもそこであきらめなくてよかったなと思います。

毎日森に通うわけですが、まちの幼稚園や保育園で行われている教育は、十分に

行うことができるんです。

集団行動をしたり、歌を歌ったり、絵を描いたり…。季節に応じて、年齢に応じ

て、森では想像以上に多くの経験ができるんです。

 

その言葉のとおり、子どもたちはなんでもよく知っています。

「この木は触ったら“カイカイ”になるんやで」

「この葉っぱは、手が切れるから気をつけて」

きっと、うるしにかぶれたり、雑草で手を切った経験があるんだろうな。

 

の:そうなんです。

あの子たちの話は、経験に裏打ちされているものなんです。

最近は、そんな自然体験をしている子が本当に少ないですね。

今年4月から通っている5歳の女の子は、アレルギーがひどく、家ですごすことが多かったんです。

森の中に入ると、いろんなことに興味を持つんだけれど、虫は怖くてなかなか触

ることができなかったんです。

ところが、ホタルを観にいったとき。

飛んできたホタルを、ふと手のひらに乗せることができたんです。

そうするとこれまでの好奇心が爆発的に広がって、今度はバッタを捕まえること

ができるようになりました。

捕まえたという経験、そして「バッタをつかまえた!」という彼女の言葉には、

ものすごく大きな意味があるんです。

 

なかなかうまくつかむことができず、逃がしてしまったり、足がとれてしまった

りします。それも学び。

「足がとれたらきっと痛いよね…」と、バッタの気持ちを考えるきっかけになる。

それはとりもなおさず、相手の気持ちを考える優しさや思いやりへとつながっていきます。

 

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この子たちが今、森で育てているのは、

将来社会の中でどう生きていくか

どう振る舞うか

人に対してどんな風に接していくのか

自分をどう出したらいいか

そういうところにつながっていく、こころの根っこに持つべき「経験」。

ただ遊んでいるようで、

この遊びの中には、将来のために身につけたいものがたくさん隠れているんです。

こういうことって、人工的に作り出せないんです。

どれだけ良い道具を使って、どれだけ人の頭で考えても、自然の大きさにはかなわない。

擬似的な道具や人工的な環境で育つのは、擬似的な力であり、人工的なうわべの

力にすぎません。

テクニカルな小手先の保育・教育では、ホンモノの力は身につかないのです。

人間は自然の生き物です。

本当の力は、本当の自然のなかでしか育たない。

子どもたちの素直で純粋な感性や表現力を、そのまま育みたいと思っています。

素直にたくさんのことを吸収できる人間に育ってほしい。

それには、自然の中に入るのがいいと思います。

もちろん自然もいいときばかりではありません。

寒い日もあれば暑い日もあります。

突発的な雨や強い風も。

それらもみんな、この子たちを育ててくれます。

それこそが、と言ってもいいでしょう。

子どもたちは、自分で育っていきます。

そのチカラをしっかり引き出して、しっかり育つ。

私たちはそのための環境づくりをしているんです。

そしてこのカタチが、「非日常」である野外活動を、子どもたちの「日常」とし

ていける場じゃないかと思ったんです。

まさに、非日常と日常のジレンマを解消できる理想のカタチであると思ったわけです。

 

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■異年齢で育てるということ

 

団体立ち上げのときからスタッフとして関わっていた拜郷(ハイゴウ)さんにもお話

を伺いました。

子どもたちは彼女を「ごうちゃん」とよび、絶大なる信頼を寄せています。

 

は:今の11人は、森の大きさや保育の質を考えると、最も良い規模だと思っています。

ここでの私の役割は、ほめるとか、評価するのではなく、共感する立場。

「どんぐりみつけたよ」という子どもに「大きいね!」でなく

「ごうちゃんもみつけたよ」と。

今見つけたものよりも大きかったり、きれいだったりするものがいいのでなく、

自分で見つけたもの、見つけたことがとっても大切なことなんだよと伝えたい。

それが、タカラモノなんです。

 

子どもたちは本当にやさしい。

私が一人でぽつんと子どもたちの様子をうかがっていると、駆け寄ってきて

名前を教えてくれたり、散歩中に見つけた宝物をみせてくれたり、お友だちを紹介してくれたり。

小さな気遣いを見せてくれました。

 

は:子どもたちは異年齢の中で育っているので、

自分が大きい子にしてもらった「うれしい行為」を覚えているんでしょうね。

そうやって、自分が寂しいときに声をかけてもらってうれしかった子は、今度自

分以外の子に必ず声をかけてあげるんです。

生活面でも大きい子が小さい子を自然と見てあげています。

そんな気遣いは、大人が教えるにはなかなか難しいことですが、自然と体得して

いるようですね。

 

 

拜郷さんの目線は子どもたちと同じ高さ。

「ごうちゃん」のまわりには、絶えず子どもたちの笑顔がありました。

 

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■「非構成」のプログラム

 

の:集合場所から川まで、結構な道のりだったでしょう。

大人でもかなりしんどい距離です。でも子どもたちは、しっかり歩くでしょう。

「川へ行くこと」自体は、大人が「構成した」プログラムです。

 

森のようちえんが始まってから、夏には川へ行くために近くの「ブルーベリーの

森」までしっかり歩きこんで、ここまでの距離を歩けるようになりました。

遊ぶことで体力をつけると、子どもたちはブルーベリーの森よりももっと遠くに

行ってみたいと思い始めるんです。

「川に行くこと」つまりあそびの環境は、構成しています。

でも川についたら、何をするのも子どもの自由です。

あそびの中身は非構成。

足をつけてバシャバシャしてもいいし、魚を捕まえるのも良し。

お団子を作ったりね。

水に入りたくない子は、入らなくてもいいわけです。

そこで得は、好きなことを好きなようにする。

あそびの中身はプログラムとして仕組まれていないんです。

 

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子どもが大切にされ、でも過保護でない環境のなかで育っていることを

野沢さんを見る信頼しきったまなざしから感じることができます。

 

この「非構成なプログラム」は小学生対象のキャンプにも取り入れているそうですが…。

 

の:小学生のキャンプは、どうしても非日常になってしまいます。

普段は学校がありますからね。

そのなかで、私たちはできるだけプログラムフリーな状態にしたいと思っています。

シュノーケルキャンプなら、インストラクターにやり方を教えてもらうところま

ではプログラム。

その後はフリーです。

みんな、海の上をぷかぷかと、自由にお散歩しています。

キャンプファイヤーもやめたんです。

キャンプにはつき物ですが、出し物とか…大人にやらされるわけです。

ネイチャーマジックでは、いわゆるレクリエーションファイヤーは「ちょっと違

う」んじゃないかということでやっていないんです。

ふりかえりにろうそくを使ったりして、火を利用することはあるんですけどね。

保護者からはお問い合わせがあるんですよ。

「キャンプファイヤーはないんですか?」「川遊びって何をするんですか?」って。

でも「川でいろいろ遊ぶんです…」としか言いようがなくて…(笑)。

結局子どもたちの発想力。

大人がするべきことは、ある程度までの構成であって、

子どもたちがその中で何を感じてどう動くか

動けない場合はどうするか…

その環境にいる子どもたちを想像し、考えるのが大人の役割かな。

 

子どもの発想力をより自然な形で育てることができるのが

ネイチャーマジックの考えるキャンプの魅力。

「日常性」と「非日常性」を常に意識しつつ、子どもたちにより良い体験を提供し続けています。

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≪取材≫松本 ≪撮影≫久後